[ フレーム復帰 ]
■ L'eternite ■
 

これは、遥か未来の……そして同時に、遠い過去の物語。

「世界大崩壊」によって、高度な技術文明と文字が失われた時代。
地形は激変し、極度の汚染によって生き残った人々は地下に隠れ住む事を余儀なくされていた。
長く続いた黄昏の時代は、ある時突然に人々にもたらされた「錬金魔術」によって転機を迎える。
旧世界においては異端とされた「錬金魔術」、そして創り出された万能の人形「織神」。
いわば「人造の神」とも言える彼らを操る錬金術師達を、人々は「神遣い」と呼んだ。
錬金術師達は、「織神」を世界再生の礎として地上へ送り出し、崩壊した世界の再生を始めた。
彼らを連れていたのは、一人の「聖女」。彼女は人々に再び「文字」と「言葉」をもたらした。
文明再生の基盤を得た人々は、やがて再生の成った地上での生活を取り戻す。
それは同時に「織神」の役割が完了した事も意味した。
程なくして「神遣い」達は「織神」の技術と共に、人知れず辺境へと去っていった。
最後まで「神遣い」である錬金術師達が何者だったのか、何処からやってきたのか分からぬままに。
そして「聖女」もまた同様に、人々の前から姿を消した。
けれどその後も歴史の端々で彼女の目撃談は綴られる。
何十年、何百年という長い時の中で、常に変わらぬ姿で語られる彼女の話はいつしか「神話」となり、
活版印刷技術の復興と共に「新世界最初の書物」として記録される事となる。

――更に月日は流れ。
「神遣い」が神話上の物語とされ、実在した事が忘れられかけていた頃。
人気のない辺境に残り続けていた「織神工房」が、最後の時を迎えていた。
唯一残された最後の末裔はまだ幼い子供で、彼女は自分が「神遣い」の子孫だとは知らない。
物心ついた頃には、工房にいる人間は既に一人きりだった。
故に彼女を実質的に育てたのは、わずかに残された「織神」。
道具として創られた「織神」に寿命は存在しない。だが創造物である以上、やがては朽ち果てる。
ある日とうとう老朽化して動かなくなった最後の「織神」を前にし、彼女は途方に暮れた。
悲しい、寂しいという感情を教える者も知る機会もなかった。だから、彼女は涙を流さなかった。
ただ、いつも面倒を見てくれた保護者がいなくなった事で、漠然とした不安のみがあった。
空腹を感じながら、けれど彼女に出来る事は何もなく。
ただそうする事しか出来ないから、ひたすらに工房の奥で眠り続けた。

――ふと、人の気配がした。
弱々しく目を開けると、そこには一人の女性が立っていた。
手には、一冊の古びた本を大事そうに抱えている。
柔らかな亜麻色の髪から覗く瞳は血のように赤く透明で――
柔和だけれど、何処か凛と張り詰めた鋭さを湛えていた。
初めて見る自分以外の「人間」に、少女は尋ねる。

「……おねえちゃん、だれ?」

しかし女性はそれには答えず、逆に問い返した。

「貴方は生きたい?何もかもが変わり果て、そしてなお変容を続けるこの世界を見つめる勇気がある?」

少女にとって、その問いは難しすぎた。

「せ、かい……ゆーき……?それって、たのしい?おいしいの?」
「そうね……楽しい事が沢山あるし、美味しいものも沢山ある。
 でも、辛い事や嫌な事も、怖い事だって沢山あるわ。
 世界にはね、貴方が望むならば何だってある。
 勿論限りはあるけれど、でもその限りを決めるのは貴方自身。
 世界は言ってみれば、このオルゴールのようなもの」

そう言って、少女に小さな箱を手渡す。

「これは、なに?」
「開けて御覧なさい」

言われた通りに蓋を開けると、箱は金属的な音色の愛らしいメロディを奏で始めた。
躍動的でいて何処か哀愁を帯びた旋律はしばし少女の耳を楽しませた後
ゆっくりとテンポを落とし、やがて再生を止める。

「……とまっちゃったよ?」
「また聴きたい?」
「うん!」
「じゃあ、箱についているその発条を巻いて御覧なさい」
「ぜん、まい……?」
「そのつまみよ。こう捻ると……ほら、回るでしょう」
「うーんと……んしょ……あ!」

覚束ない手で巻き直された発条から手を離すと、オルゴールは再び歌い始めた。

「わあ……すごい、すごい」

無邪気に笑う少女。

「世界は、自分から動かなければ何も答えてくれない。何も教えてくれない。
 けれど、今発条を回したように様々な答えを、光景を、出会いを、
 自ら求めて旅をする事で新しい体験を沢山することが出来る。
 この世の全ては発条。求めれば答えてくれる。
 その答えは必ずしも楽しいものばかりではないけれど
 自分にとって限りなく大切で輝かしく、楽しい答えだってきっとある。
 その為には、長い長い時間と我慢強さが必要になるわ」

亜麻髪の女性の話は、やはり少女には難しかった。

「よくわかんないけど……んと、せかいって、たのしいの?たのしいのだいすき!
 あ、でもね、いまはおいしいほうがすきかな」

空腹なのに目を輝かせてそう話す少女の様子に、女性は初めて笑顔を見せた。

「くすっ……そうね、お腹が空いているのね。それなら、私と一緒に来る?
 まずはごはんにしましょう。
 それから世界がどんなものか、旅がどういうものか。貴方自身で体験するといいわ。
 私が教えてあげる。その先どうするかは……いずれ貴方自身で決めなさい。
 遠い私の同胞……『織神』の子」
「おり、がみ?それって、おいしい?」
「……ううん、気にしないで。そういえば、貴方の名前を聞いていなかったわね」
「なまえって、なに?」
「貴方を呼ぶ時、なんて呼ぶかって事。……そうね、貴方にはまだないのね」
「おねえちゃんは、なんていうの?」

自らが被っていた懐中時計付きの一風変わった帽子を少女にそっと被せ、彼女は答える。

「私の名前はね……」

 

 
Unit GrowSphereオリジナルアルバム第十弾、「L'eternite -黄昏の果て、黎明の詩-」
Grimoire de Gremoria」から「AntiquE:UnknowN」へと、異なる二つの世界を結ぶ物語です。
文明社会の崩壊、汚染された大地。
文字や言葉、過去のほぼ全てが失われ、滅亡を向かえた世界。
再生の礎は、旧世界が遺した世界の例外……「生ける永遠の魔術書」リデルが伝えた錬金魔術。
「終わり」を認めず、その先を求めなければならない彼女の「存在理由」。
何処か冷めた目で世界を眺めつつも、人々の生き様を見つめ終わりのない旅を続ける彼女は
やがて辺境の朽ち果てた「織神工房」の中で幼い少女と出会う。
少女は、かつてリデルが人に伝えた錬金魔術を駆使し世界を再生した「神遣い」達の最後の末裔で――

 【トラック構成】
 Tr.01 Lost Chronica
「失われた時代」と人は呼ぶ。
遺される意義を失い、遺される途をも閉ざされた、遠い昔の旧世界。
今はもう伝えられる事のない年代記を、大地に刻まれた傷痕だけが記憶している。
 Tr.02 言空( ことがら )の果て - No Words -
かつて世界の崩壊と共に、人々は「言葉」と「文字」を失った。
言葉を乱された人々がバベルを捨てたように、
肥大化した旧世界は何も語り得ぬ廃墟へと還る。
 Tr.03 織神工房と神遣い - Silver Age -
その者達は「神遣い」と呼ばれた。
彼らは高度な錬金魔術と万能人形「織神」をもって世界の再生を始めた。
「神話の時代」は終わりを告げ、人の手による創世……「銀の時代」へと移りゆく。
 Tr.04 生きて散る花、死して咲く花
何かを成す為に、そしてやがて散るが故に生きる。
世界に無限はなく、有限の繰り返しと連鎖とを織り成す。
咲き誇る花達が綴る命の記憶は、無限を与えられた「世界の例外」にとって
悲しくも眩しい光景だった。
 Tr.05 箱舟庭園 - Beginning of "Lexenbach" -
滅びた旧世界の遺産。忘れ去られた箱舟。与えられた役割を果たせなかった夢の残り香。
終焉を迎えた箱舟に手向けられた花々が、やがて廃墟を無人の庭園へと変えてゆく。
 Tr.06 追想回廊 - Clockworks Labyrinth -
「神遣い」の消えた神殿。辺境に佇む朽ちた「織神工房」の奥。
いずれ消えゆく工房の回廊には、かつての黎明を偲ぶかのように
ステンドグラス越しの陽射しが射し込む。
 Tr.07 ロディニア幻想
海に生まれ、地に育ち、やがて朽ちた身は風と共に空へと消える。
どんなに世界が変わろうとも、魂に刻まれた大地への郷愁は決して失われはしない。
 Tr.08 メトセラの少女 - Phillica -
人に生まれながら、人を知らなかった。
人ならざる人形に育てられながら、彼女は誰よりも純粋だった。
工房の外に広がる「世界」は、彼女にとって無限の宝物のように輝いていた。
 Tr.09 とある魔術書と懐中時計の物語
「人」の先を知ろうとした人間と、「人」の本質を知ろうとした悪魔が遺した魔術書。
終わらぬ逆行転生を刻む懐中時計だけが、その行く末を知っている。
 Tr.10 聖女と呼ばれた魔女 - Liddell the Holy Witch -
錬金魔術が異端だった過去、闇より創られ「魔女」として世界を見つめ続けた人ならざる少女。
人々に「言葉」を伝え世界と共に生きる事を教えた彼女は、
いつしか神話の中で「聖女」と呼ばれる。
 Tr.11 クレイドル・エンド - 旅の始まり -
この世の全ては発条。求めれば答えてくれる。
与えられた知識のみに生きる揺り篭の時代は終わった。
「永遠」を与えられた少女と、「永遠」に育てられた少女。
世界を求める「旅」は受け継がれてゆく。
 Tr.12 L'eternite
人々は様々な形で「永遠」を求めた。やがて妄執の果て、多くは「永遠」の意味を見失った。
変化を恐れ「永遠」へ逃げようとする者は、
変化を経なければ「永遠」へと辿り付けぬ事に気付かない。


【作曲・イラスト・設定・ジャケットデザイン】
諌月 呉霞 / Unit GrowSphere
【頒布価格】
500円

2007/5/11(日) 、第21回M3にて頒布予定です。
B-19 「Unit GrowSphere」

[ 全曲クロスフェードサンプル( mp3 ) ]



バナー大 (468x60 pixel)


バナー小 (200x40 pixel)

 

[ Back ]