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■ 弾劾のリア ■
 

かつて、世界の創造主として神がいて。
その御遣いとして天使が地上に遣わされていた頃。
不完全な存在として創られた人は、故にこそ数多の「可能性」を持ち。
そのうちの魔なる可能性を戒め、導き律する存在が天使。
そう創られた。そう定められた。その筈だった。

神が創り出した「可能性」という名の怪物は、やがて世界の在り様そのものに干渉する。
「可能性」……またの名を「兆し」。
神にしかなし得なかった世界の改変をも可能にする、禁断の誘惑。

人に触れた事により、その誘惑を手にしてしまった天使達は。
やがて誘惑に屈してしまった者と否定した者とで二つに分かれ、
地上の人々をも巻き込んだ戦いを引き起こした。
神より授かった強大な力の応酬により、世界は滅びの危機に瀕する。
神は大いに嘆き、怒り、彼らを裁き砕く存在として「弾劾者」を創り出した。
惑に屈した天使達を「悪魔」として打ち倒し、地の底へと葬り。
否定した天使達も無益な争いを引き起こさぬよう、天の果てへと封じ。
地上世界の末を人に託して、神は眠りについた。
創世の神話はここで終わる。

――ただ、ひとつ。
悪しき「兆し」が再び世界を歪めるならば、それを滅ぼす「弾劾者」の戒律を残して。

「弾劾者」。
それは、いわば人々に施された「世界」の為の安全装置。
紫色の瞳と絶大なる神罰の力を有し、悪しき「兆し」を裁く運命を背負って生まれる「特別」な「人間」。

歴史上、「弾劾者」によってなされたとされる災厄は三つ。
悪魔の誘惑により穢された人々と楽園とを共に滅ぼした「失楽園」。
神の座である天に届こうとした人々の「言語」を砕いた「バベルの終焉」。
技術と知識の粋を集め自ら「神」になろうとした人々の「文字」と「文明」を葬った「世界大崩壊」。
「兆し」の誘惑は非常に強く、その都度人々は神が遺した神罰の意思により
「神の箱庭の住人」以上の存在になることを阻まれてきた。
悪しき「兆し」を討つとされた「弾劾者」の意義も、いつしか秩序を守る守護というよりも
人々を抑圧する絶対の戒律としての側面こそが主となっていた。

そうして、最後の「弾劾」より再び長い月日が流れた今。
文明を再興した人々の前に、今再び「弾劾」の影が忍び寄っていた。
とある街で、紫色の瞳を持った赤子が生まれたのだ。
「世界大崩壊」による記録の断絶により、人々はそれが「弾劾者」の証である事を知らない。
それは生まれた本人とて同様で。
家族、街のみんなの愛情に育まれ、その子は運命を知らぬまま心優しい少女に育った。
そんな彼女の前に、ある日不思議な人物が現れる。
柔らかな亜麻色の髪と、血のように鮮やかで透き通ったな紅い瞳の女性。
柔和だけれど、何処か凛と張り詰めた気配を漂わせるその人物は、自らを「リデル」と名乗った。

「紫の瞳は、神罰の担い手の証。いつか、貴方は選ばなければならない。
 与えられた宿命に従って、神の定義する『人々の傲慢』を滅ぼすか。
 それとも、人の『可能性』……『兆し』を信じ、神が与えた戒律に背くか」

それは少女にとって謎かけに等しい言葉だった。

「何の……話……」

なおもリデルは続ける。

「神は人を箱庭に閉じ込め、その枠を歪めようとする存在を許容しない仕組みとして
 貴方のような存在が生まれるよう世界を設計したわ。
 だというのに、枠を歪めうる『可能性』をも人に与えた。
 それがなければ『弾劾者』なんて不要だった筈なのに。何故か分かる?」

答えようもない唐突な問いかけに、少女は言葉に詰まる。

「この世界の『絶対戒律』としての『弾劾者』の力。
 ひとたび発動させたら、それは造作もなく人々の希望を打ち砕く。
 時には心を。時には知識を。時には命を。
 本能として生まれ出ようとするその力に従うなら、戒律は貴方の心に苦痛を与える。
 それは、過去三人の『弾劾者』には起こり得なかった事象。
 貴方は四人目の『弾劾者』。そして――いずれを選ぶか定まらぬ、この世界で初めての『弾劾者』」

少女は彼女の言葉の半分も理解できなかったが、
自身に何か恐ろしい宿命が定められているらしいことだけは分かった。

「何……何なの、戒律とか弾劾者とか……。
 そんなの知らないわ。知りたくもない。
 嘘でしょう。嘘と言って。
 私はただみんなと一緒に穏やかに生きていたいだけよ」

思わず叫ぶ。
ここは街の中央広場。往来の人も多い。
不思議な言葉を綴るリデルと、叫ぶ少女。気付かぬ筈はないのに。
けれど、今この世界にはたった二人っきりとでもいうように、
彼女達の声も姿も、周囲の誰にも認識されていない。
その異常さが、リデルと名乗った人物が普通の存在ではないことを示していた。
故に、信じざるを得ない。彼女が語った『弾劾者』の話が一定の事実を含むこと。
怯える少女をリデルはどこか寂しそうな瞳で見つめた後、そっと抱きしめた。

「――歌いなさい。
 人々の心に貴方の想いを伝える、歌を歌うといいわ。
 『弾劾者』としての破壊衝動をただ耐えるのは難しい。
 けれどその力を旋律に変えて響かせる事ならできる。
 希望を砕く力は、希望を紡ぐ力にもなりえる。
 それが人に託された『可能性』。貴方だからこそ為し得る新たな福音。
 これだけは忘れないで。
 『弾劾者』の定めがどんなに辛く厳しい道であったとしても、
 その力を行使するのは貴方自身の意思次第。
 望む未来は貴方の手の届く所にある。貴方自身が正しいと信じる選択をなさい」

この時、少女は未だ目覚めぬ弾劾者としての直感で気付いてしまった。
リデルと名乗るこの人物が――かつて一度滅んだ世界を再び導いたとされる神話の聖女であることを。
神が定めたあらゆる戒律の外に創られた「世界の例外」。
かつて世界の真理を希求した錬金術師オストルージュと、
弾劾者によって天を追放された悪魔グレモリアとが共に見た夢の残滓。
彼女こそは「兆し」そのもの。魂としての自我を定義された「可能性」の姿。

可能性を正す弾劾の少女と、可能性を求める永遠の聖女。
創世以来、「世界」の絶対戒律が故に静止していた巨大な運命の発条が
今、二人の邂逅によってゆっくりと回り出した――。
 
 

 
Unit GrowSphereオリジナルアルバム第十四弾、「弾劾のアリア -Lichtverum Chronicle-」
Grimoire de Gremoria」より続く「永遠少女リデル」シリーズの最終章です。
運命、宿命、命の意味……人の可能性。
錬金術師オストルージュが求め、悪魔グレモリアが祈り、永遠少女リデルに託された世界の理の探求。
彼らが長い時をかけ探し続けた答えを得る鍵――
それは世界を、人を断罪し滅ぼしうる力を秘めて生を受けた一人の少女……その名をアリア。
与えられた定めを未だ知らぬ彼女に、リデルは告げる。
「貴方は『弾劾者』……神が定めし人の分を超えた『兆し』を打ち砕く、神罰の代行者」
戸惑うアリアが導く世界の未来は――

 【トラック構成】
 Tr.01 False Apocalypse
改竄された黙示録。失われた神話の結末。伝えられるは偽りの伝承。
もはや知る者なき世界の所以。神去りし世界の神なる戒律。
 Tr.02 バベルの終焉
分かたれた知識、切り裂かれた祈り。言葉と共に終わりを告げた人々の歴史。
断罪された「兆し」の先。裁かれた故すら人は知らない。
 Tr.03 Border of the world, nobody had seen
神なる存在が世界の内側を定義したならば。その外側は誰が為の領域か。
世界という戒律に縛られた存在が知る事許されぬ、神をも閉じ込めた虚空の牢獄。
 Tr.04 去りし悪魔の子守歌 - Song of Gremoria -
かつて「兆し」を希求し、神に弾劾され悪魔とされた天使がいた。
ただ一人愛した錬金術師を失った彼女は、今も地の何処かで人のゆく末を見守っている。
 Tr.05 Gardensphere's Exception
予定調和と変容因子。相反する存在を孕んだ矛盾の箱庭。
自我を与えられた「兆し」の姿。世界の「例外」たる永遠の旅人は、ただ哀しげな微笑を湛える。
 Tr.06 戒めよ、其は世界を縛る鎖 - Commandment Phantasm -
この世の形を、命の在り様を、戒め律する神罰の御技。
淡紫の瞳は滅びの歯車。定めが命ずるは過ぎたる人の可能性。逸脱を認めぬ戒律の雷。
 Tr.07 汝が名はリヒトヴェルム
かつて「神」はこう告げた――「光あれ」と。「光」を討つ矛盾した理を世界に授けて。
弾劾者は光……「兆し」の審判を司る者。なればこそ目覚め、判じよ。汝、光の真理を導く者。
 Tr.08 夢の向こう、祈りの彼方
雛鳥はいずれ巣立つ。例えどんなに親鳥が制しても、まだ見ぬ世界へ翼を広げる。
神が半ば諦めた「世界」という名の檻からの巣立ち。人が見る夢の果て、祈りの届く先。
 Tr.09 弾劾のアリア
私は歌う。人々を愛する故に。私は歌う。信じる想いを伝える為に。
弾劾の槌を世界という名の檻に向け、守りたい未来を拓く為に。
 Tr.10 Last Intrada - 四人目のリデル -
一人目は考えることを知らず。二人目は想うことを知らず。三人目は怒りに任せて定めを遂行した。
――四人目の表と裏、弾劾のアリアと永遠のリデル。発条仕掛けの不思議の国、最後の序曲の幕が開く。


【作曲・イラスト・設定・ジャケットデザイン】
諌月 呉霞 / Unit GrowSphere
【頒布価格】
500円

2009/8/15(土) 、コミックマーケット76(二日目)にて頒布予定です。
東コ-20a「Unit GrowSphere」

 [ 全曲クロスフェードサンプル( mp3 ) ] 


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