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■ 蒼茫の虚巧少女 ■
 

世界の果て……遥か雲の彼方に、その大地はある。

その名をバルティカ。

自在に宙に浮く為の浮力を生み出す半永久動力機関「機巧(ギア)」。
今となっては新たに作り出す事の困難な、失われた古代文明の遺産。
その最大にして最高性能を持つ機巧を五つ使い築かれた、
最初にして最後の人造浮遊大陸。
並の機巧動力では到達の困難な「虚空境界」の限界高度に、
今も人知れず存在すると言い伝えられる。
もはや伝説の存在になりつつある古代文明について、その姿を語る資料は少ない。
遺跡等から発掘される機巧のみが、
ひたすらに空を目指した彼らの在り様を微かに伝えるのみ。
現代の機巧動力艇では恐らく辿り着けぬだろうと言われるその大地の姿を、
未だ見た者はいない。

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

テオドール・レンベルは別段腕のいい飛行技師という訳ではなかったし、
操縦士としての技量も人並み程度だった。
彼に人より抜きん出ている才能があるとすれば、
それは根気強さと夢を諦めない強い意志であったろう。
機巧動力艇を組み上げるには高度な知識と経験が必要であり、
何より動力として使用する機巧を手に入れる困難さが立ちはだかる。
元より遺跡から発掘されるのみの機巧であるから、その価値も際立って高い。
多くの人々にとっては高嶺の花であり、それ故に空の航路は
一部の有力ギルドが所有する大型機巧動力艇に軒並み独占されていた。
無論、それを好ましく思わずに自力で空への道を探る者も少数ながら存在する。
彼もそんな一人だった。

機巧を入手する為に彼が取った方法は、ある意味では最も茨の道であったかもしれない。
彼は、自ら遺跡を探し機巧を発掘する道を選んだ。
まだ知られていない遺跡を探し出す困難さに加え、
そこに使用可能な機巧がある可能性の低さを考慮すれば、分の悪い賭けとも言えた。
しかし粘り強い彼の努力は、
ついに保存状態の良好な機巧の発掘という形で報われる事になる。

通常、機巧は現代では未知の金属を用いて作られた歯車の形状をしている。
彼が苦労の末に探し当てた機巧は、しかし一般に伝わる機巧の特徴とはやや異なっていた。
大きさや形状はさほど変わった風でもないが、その色は――透明であった。
まるで水晶でできたかのようなその機巧は、
しかしどこか金属を思わせる不思議な光沢を放っていた。
機巧に似せた何か別のものとも考えられたが、実際それは機巧としての機能を示した。
どころか、その大きさからは考えられないほど高い浮力を生み出すことができた。

やがて、彼は一機の機巧動力艇を組み上げた。
そして彼は次の夢……伝説の浮遊大陸を探す旅に出る事を決意する。

言い伝えでは、その大陸は東の彼方……広大な海の向こう、
消えることなく高空に連なる雲の峰々の先にあるとされる。 海流渦巻く「死者の海」、突風が逆巻く「天の風門」。
「世界の果て」を目指す探検家達を阻んできた難関に、彼は果敢に挑んだ。
機体は軋み、振り落とされないようにするだけで精一杯という状況が長らく続いた。
ともすれば激しく翻弄される風の中で意識を失いかける事も度々あった。

そしてふと気付いた時……彼は、飛び降りる以外に地上へ帰る術を失った事を知った。

機巧の《オーバーヒート》だった。
荒れ狂う風の中で機体の進路を保つ為に過剰な浮力を引き出され続けた機巧が
制御を受け付けない状態となり、最大出力で浮力を生み出し続けていたのである。
機巧を酷使した際にごく稀に起こる「事故」であり、
この状態になってしまったらより強い出力を持つ他の機巧艇に曳航してもらうか
浮き続けようとする機巧を切り捨てて落下するしかない。
雲を眼下に見下ろすこの高さで行えば、まず命はない。
普通ならば絶望するだろうこの状況下で、しかし彼は逆の発想をした。

今ならば。「虚空境界」を越えられるかもしれない。

それは、かつて機巧を持ってしても困難とされた地上の存在が至れる限界空域。
そして彼が目指す浮遊大陸は、まさしくその高度に存在するのだ。
程なくして、彼はその予感が正しい事を知る。
薄くなる空気、下がりゆく気温、水平線に霞がかかってぼやけるほどの高度に至った時、
視界に不自然に宙に浮かぶ大陸が姿を現した。

「あれが……バルティカ……」

バルティカ。
その名は、古代の言葉で「五柱の神の城」を意味すると言われる。
神とは、大陸を浮かせるのに使われた特別な五つの機巧の事。
外見からも確認できる文字通り氷柱のような巨大機巧は――
彼が動力艇に用いたものと同じく、不思議な金属光沢を放つ透明であった。

勝手に上昇を続ける機体を必死に操り、どうにか大陸の端にひっかけるようにして停止させると
彼はついに長年の夢だった大陸へと足を踏み入れた。
五つの巨大機巧の他にも随所に透明な機巧が組み込まれたバルティカの様子は、
例えるなら巨大な神殿と広大な庭園だった。
壮大にして荘厳――
そこは天上の楽園というよりも、神の為の祭壇とでも言い表した方がより的確に思われた。
恐らくはもう住む者もいないであろう庭園を彩る植物達は、
けれどよく手入れされていて美しい光景を保っている。
一体どうして……疑問の答えはすぐに得られた。

「――貴方は誰。どこから来たの」

決して大きくはないけれど、凛と響く鈴のような声。
風になびいて揺れる繊細な銀の髪。
どこか人離れしたガラス細工のような美しさを持つ少女は、興味深げに彼に尋ねた。
地上から機巧動力艇でたどり着いたことを告げると、彼女は静かに微笑んだ。

「そう。よかった……『地上は滅んでいなかった』のね」

その言葉の意味。
そして、彼女から語られたバルティカの真実は――

 

 
Unit GrowSphereの二十四枚目、オリジナル第十八弾は「蒼茫(あお)の虚巧少女《レフィリア》」
かつての古代文明が遺した遺物『機巧(ギア)』によって、人々が再び空への翼を手に入れた時代。
人が至れる空の果て「虚空境界」にあるという伝説の浮遊大陸バルティカを探す為、
一人の青年が機巧動力艇を組み上げ、天空への旅へ出る――
高度なエネルギー源である機巧を作り上げた古代文明は何故滅んだのか?
彼らは何故空の彼方に巨大な大陸を浮かせたのか?
青年がやがて大陸で出会う、恐らくは全ての答えを知っているであろう少女の正体は――

 【トラック構成】
 Tr.1 虚空伝承 -Tears of Gears-
空の果て――そこは人の手が届かぬ領域。雲海をも遥か下に見下ろす、神々の世界。
伝承がかすかに示す、虚空へ至る御技。人々は今やその所以を知らない。
 Tr.2 機巧 -Mythtic Miracle-
機巧(Gear)……それは遠い神話時代のアーティファクト。
空間より無尽蔵のエネルギーを導き浮力を生み出す、神秘的な歯車。
 Tr.3 大飛空時代 -Restoration of Sky-
遺跡より発掘される機巧。古代文明の叡智が、今再び人々を空へとかき立てる。
そこは新たなフロンティア。地の果て、空の果てを求め、機巧動力艇は空を駆ける。
 Tr.4 夜間飛翔 -Over the Sky, Hurry Up!-
黎明前の深い紺の空。テオドールの動力艇が虚空を目指し離陸する。
個人飛空制限の監視が始まるよりも前、ごく親しい村人達だけの見送りを背に。
 Tr.5 死者の海 -Sea of Evil Ghost-
数多の船を飲み込み、幽霊船を量産してきた海の彼方の難所……死者の海。
強烈な潮の流れや轟音を上げる渦。空からとはいえ、その光景は恐れを抱かせる。
 Tr.6 天の風門 -Storm of Heaven's Gate-
見えざる風柱、荒れ狂う突風。空より果てを目指す人々をことごとく阻む最大の難所。
小さな機巧動力艇の機体が軋みを上げる。だが、ここを越えねば果ての大陸へは至れない。
 Tr.7 五柱の神の城 -Vacancy Castle 'Bal-Ti-Cah'-
オーバーヒートを起こし、虚空境界へと差し掛かった彼の動力艇の前に聳える巨大な柱。
伝説の浮遊大陸バルティカ……その名は「五柱の神の城」を意味するという。
 Tr.8 虚巧遣いの巫女 -Divine Pray-
かつて滅んだ古代文明の時代より、天に逃れたバルティカを護り続ける一族の最後の生き残り。
硝子のように煌く繊細な銀の髪を風になびかせ、彼女……レフィリアはただ静かに微笑む。
 Tr.9 天上の鎮魂歌 -Skyward Requiem-
慰めるは、汚れ傷ついた大地が為。深い自責を遠い未来に語り継ぐが為。
いつの日か再生する世界への祈り。レフィリアの鎮魂歌が、優しく五柱の虚巧と響き合う。
 Tr.10 蒼茫の虚巧少女 -Re:philia-
バルシェ《神の巫女》――その姓は、滅びに対する赦しの為の祈りを捧げる神官の一族を意味する。
レフィリア《再生の涙》――その名は、バルティカの民が彼女に託したただ一つの祈り。
バルティカ最後の護り人、レフィリア・バルシェ。真の世界再生の歌が、今始まる。


【作曲・イラスト・設定・ジャケットデザイン】
諌月 呉霞 / Unit GrowSphere
【頒布価格】
500円( 予定 )

2010/10/31(日) 、第26回M3の以下のスペースにて頒布予定です。
1階 C17「Unit GrowSphere」

 [ 全曲クロスフェードサンプル( mp3 ) ] 


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